今の職場に入職して半年ほど経った頃、
前課長から「当番を決めて掃除をするように」と指示があった。
「床はホコリまみれで、医療事務の職場として如何なものか」
と少し強い口調で言われた。
その時、各部署のパートさんが都合の良い時間に
お掃除をすることに決まった。
始まりは前課長の一言だったけれど、その後課長が代わり、
気づけば掃除を続けているのは私だけになっていた。
そして、1年ほど前に他のパートさんから
「課長も変わったし、もう掃除している人はいませんよ。
だから、しなくていいんですよ」
と教えられた。
でも、私がしなかったら、誰がするのだろう。
ホコリまみれになった床を、私は座って見ていられない。
見かねた誰かが掃除するのを、待ってもいられない。
私が掃除をする姿を見て、新しく入ったパートさんに
「はぁ掃除しているぅ」と小声で言われたことがある。
「パートは下の立場だから掃除をする」
もしかしたら、そんな構図に見えたのかもしれない。
また最近では「忙しいから、お掃除はしなくても良いですよね?」と
陰で言っているパートさんがいることも聞かされた。
ある有名なインフルエンサーが
「学校の掃除は業者に頼めばいい」と言っていたが
このご時世、お金をかけてでも時間を
有意義に使おうということなのだろうか?
しかし、ここではセキュリティーの関係で、
清掃業者は入れられないのである。
当たり前のことだが、パートさんの忙しさと職員さんの忙しさは質が違う。
職員さんは事務処理・書類作成以外に、
ミーティングや打ち合わせ、会議に追われる。
矢面に立たされ、それに伴い責任を負わされることもある。
側で見ていて、頭が下がる思いがする。
それに私の部署の職員さんは、
私の娘と同世代なので、母心も湧くというものだ。
だから「お掃除くらい私が!」
私は、お掃除をやらされているとは思っていない。
職員さんも、私のことを雑用係のおばさんだとは思っていない。
むしろ部署の人たちがとても喜んでいると感じられる。
お掃除の時間は、せいぜい10分か15分くらいである。
その短い時間も、雑用ではなくコミュニケーションの一つだと思っている。
そして何より、
職場で掃除をすることは、私の尊厳を損なうものではない。
私は、仕事でも日々の暮らしでも、
「人としてどうありたいか」を大切にしている。
掃除は、私なりの「そうありたい」の一つなのだ。
だから、
他のパートさんが掃除をしようが、しまいが、何も思わない。
価値観も、見ている景色も、
尊厳の置きどころも、人それぞれ違う。
私はただ、
「自分はどうありたいか」
それを大事にしているだけである。

