前回の記事で、父が南方の戦地で見た「バナナ畑」の話を書きました。
その流れで思い出すのが、もうひとつのエピソード──「パイナップル」の話です。
結婚式の引き出物から始まった会話
私たちが幼い頃、結婚式の引き出物の一つに「果物の盛り合わせ」がありました。
りんごやみかんに混ざって、立派なパイナップルが一つ。
それを見た父が、ふと口にしたのです。
「戦地にもパイナップルがあったよ。……皮を剝いて食べよった」
家族でおだてて、父にお願い
その言葉に私たち家族は驚きました。
「本当?お父さんは、パイナップルの皮が剥けると?」
「うん、自分たちで剥いて食べよったよ」
「お父さん、剝いて剥いて!」と家族みんなでおだてると、
父は、嫌がる素振りも見せず、少し照れくさそうに、
そして苦笑いを浮かべながら包丁を手に取り、まな板の前に立ちました。
大正生まれの父が台所で包丁を握るなんて、あり得ないことです。
しかし、その手捌きはなかなか見事で、家族はワッと盛り上がりました。
温かく残る、父の姿
その後も、何度かパイナップルをいただく機会がありましたが、
そのたびに父が皮を剝いて、きれいにカットし、お皿に並べてくれました。
戦地で覚えた小さな技術が、こうして家族を笑顔にしたのです。
今では、私自身がスーパーでパイナップルを買ってきて、
父の姿を思い出しながら、カットしています。
甘い香りとともに、あの時の温かい家族の空気が甦ってくるのです。
そして、あの日の話を娘に語り継いでいます。
戦争が残した「小さな贈り物」
戦地での体験といえば、つらく悲しい話が多いものです。
けれど、父が持ち帰った「パイナップルの剝き方」は、
家族の笑い声と温もりを生み出しました。
戦争が残したものは、痛みだけではありません。
そこから生まれた、ほのぼのとした記憶もまた、
大切に受け継いでいきたいと感じています。
📖関連記事はこちら👇