退職日の最後の最後に褒めてもらえた

仕事と私

在職最終日。
最後の挨拶をして、もう帰ろうかとしている時だった。

「お疲れさまでした」と声がし、
振り向くと、派遣さんが二人立っていらした。

一人の方は、たまに電話で問い合わせをするくらい。
もう一人の方は、
もう20年近く働いている大ベテランの女性で
私の上司と深く関わり合いがある人だ。

日に何度か、内線をかけてこられて、
その電話を取ることが、私は多かった。

多くの新人さんは、
そのベテラン派遣さんとのやり取りで
辛酸をなめる経験をする。
言わば、新人さんの登竜門的存在である。

普段から、このベテラン派遣さんは
自分の要件を言い終わると、
こちらが話していても、途中で切ってしまう。

こちらの問い合わせが見当違いだと、容赦なく切る。

要領を得ない話し方や、
些細なミスでさえ、
それを切り取るように指摘する。

対応がきつくて、
誰も逆らえない物の言い方をされる。

そんなベテラン派遣さんと対等に渡り合えるのは、
私の上司ぐらいだと思っていた。

最初の頃から、どう接したらいいのか分からず、
その後も、いつもどこかで身構えていた。

けれど、私は、電話対応をしているうちに
あることに気がついた。

確かに対応はきつい。
しかし、間違ったことを言われている訳ではない。
他の人だったら、
相手の言っていることを察して了承するのだが、
それを良しとしないのである。

言い換えれば、
他の人は曖昧にしてしまうことを、
そのままにしない人だった。

それをはっきり教えてくれる。

そう思った時から、
このベテラン派遣さんに
褒められることを目標にしている自分がいた。

褒められないにしても、
対応に何もなければ「良し」と思うようにした。

それでも、
なぜか以前より距離が縮まっているような感覚だけはあった。

はっきりとした理由は分からないけれど、
なんとなく、そう感じていた。

そして最後の日。

その方が、個包装のドリップコーヒーを持ってきてくださった。
思いがけない出来事に驚いた。

嬉しくて、思わず、
「電話対応で褒めてもらうのが、4年間の目標でした」
と伝えた。

すると、その場で大笑いしてくださった。
同伴していた派遣さんも大笑いされた。
すぐそばにいた上司も、
「なに?なに?何を笑ってるの?」と聞いてこられた。

「電話を一生懸命取っているのを知っているから、分かっているのよ」
と声をかけてくれた。

その一言で、
うっすらかかっていた霧がすっと消えた。

苦手だと思っていた人との距離が、
いつの間にか繋がっていたのかもしれない。

特別、親しく話をすることは一度もなかったけれど。

まだ、笑っているベテラン派遣さんの顔を見ながら、
「今まで、お疲れさまでした」と言われた言葉を
私は、素直に受け取った。

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