机周りやリビングを片づけをしたあと、お茶碗を洗った。
その中に銀色のミルクパンもあった。
いつもなら、そのまま洗って終わりにするところを、
なぜか今日は「お鍋を磨こう」と思った。
部屋を整えたことで、気持ちが動き出したのかもしれない。
その流れのまま、台所でも手が動いた。
使い込んで、少しくすんだ銀色のミルクパン。
磨き粉をつけて、丁寧に磨いていると
くすみが落ちて、少しずつ明るくなっていく。
「ああ、きれいになっていく」
きれいにしたいと思う自分が、そこにいました。
お鍋を磨いて感動したのは、
お鍋がきれいになったことだけではありません。
丁寧に暮らしたいと思いながらも、
これまでは、そこまで気持ちが向かない日が多かった。
でも退職した今、やっと私の心に余白ができたのだと思う。
ミルクパンを磨きながら、
自分の手が動くことも嬉しかった。
私の気持ちが、この手を動かしている。
そう思うと、静かだけれど確かな力が、
自分の中に戻ってくるような気がしました。
私にとっての丁寧な暮らしは、
そんな小さなことの中にありました。
退職して、時間ができたからといって、
すぐに理想の暮らしが始まるわけではない。
ミルクパンを磨いたのは、ほんの小さな家事です。
けれど、その小さな家事が、
「私はこういう暮らしがしたかったんだ」
と教えてくれたように思えました。
新しいものを買わなくてもいい。
完璧に整った部屋でなくてもいい。
誰かに見せるための暮らしでなくてもいい。
今あるものに手をかける。
今の自分が落ち着けるように、一つずつ整える。
私の暮らしは、ちゃんと私の手で整えられる。
そう思えたことが、
今日いちばん嬉しかったことでした。
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